神戸大学マンドリンクラブは2015年に創部100周年を迎えました。それを記念し、創部100周年記念誌を作成しております。
・神戸大学マンドリンクラブ100th Anniversary 記念誌
・2015年8月1日発行
・国立国会図書館本館に蔵書(閲覧請求番号:KD268-L54)
ここではその一部を公開いたします。
弦友会会員の皆様には、折々にお手元の記念誌を手にとってご覧いただけましたら幸いです。
20回生 榊原 順平
クラブ運営の『方向性』というものは、変えようと思ってすぐに変えられるものではなく、その主旨を次に続く代が理解、賛同してくれて初めて動き出すものだと思っています。そして活動の方向性が保たれたまま、それを基盤として更に発展させようとするカ強く大きな『意思』が連綿と続くこと、これが小さな源流を揺るぎない大河にまで育てていくのだと思います。私達20回生が責任回生となった第15回定期演奏会はまさにその源流作りであったと確信しています。
マンドリン、またその合奏のために作られた曲、すなわちマンドリンオリジナル曲のみに焦点を当てて、その発掘、演奏、維持、そして新たに生み出された曲をその上に重ねて行くことは、まさにマンドリン属に与えられた音楽をーつのジャンルとして確立させ、その独自性を築いていく方策であり、この考えは当時から40数年が経った今も私の中で変わっておりません。
手元に第10回定演のパンフレットがあります。『我々のめざすもの』という表題で4ページにもわたって細かな宇で綴られた文は、40数年を経て読み返しても何ら古びた印象もなく、私たちマンドリンを愛する者達に変わらぬメッセージを伝えているように思えます。
すなわち、マンドリンという楽器、またその音楽が一般の音楽愛好家の心に伝わる時、といえば(CDを通して聴く機会もありますが)やはり演奏会が主となるため、そこに何らかの主題(意味)を持たすべきだと、このメッセージは伝え、そこから私たちの源流作りも始まっているからです。
幸いなことに当時は名古屋大学ギターマンドリンクラブとの交流があり、中野二郎先生、帰山栄治氏、それに鶴原明夫氏などの強い影響を受け『めざすもの』を標傍し、それに邁進したのが15回定演、翌年の2回に及ぶ春季特別演奏会、そして16回定演でした。
こうして演奏会のあり方、それを具体化する選曲方針は後輩たちに託されましたが、彼らが私たちの掲げた方向とは違う道を辿っていたなら今日の神戸大学マンドリンクラブの特色はまた違ったものになっていたと思われます。しかし、先にも書きましたように、私たちの『めざすもの』を理解し、より大きく、深く、その流れを一度として途切れさせることなく次代に受け継いでくれたのが後輩であり、それがあったからこそ源流は揺るがぬ大河となり、斯界における確固たる存在感を得るまでになったのだと思っております。
源流と言えば、こんな実体験を通して音楽の誕生を心に刻んだこともありました。第15回定演の翌年に開催された春季特別演奏会で帰山栄治氏の「山と雪と空と」を取り上げました。この曲がなぜ山と雪、 そして空を題名としているのか、曲目解説を書くにあたり、それが知りたくて足を運んだのが帰山氏の故郷、福井でした。
・・・遠く残雪に光る白山の連峰を背に、九頭竜川の清冽な流れは岩を噛み、淀んでは濃緑の淵に美しい。ところどころに雪を残して春を待つたんぼ。どこまでも澄み切った青空と大気の素朴な匂い。そこには曲の情景をそのまま伝える原風景があった・・・
曲目解説に添えたこの一文に数日を費やしたのも、まさに源流にいたからこそと懐かしく思い出されます。
今日、学生の団体以外にプロの演奏団体が出来、またプロの独奏者が各々のテーマのもと、演奏会を開催し、それらのCDも一般の音楽雑誌で高評価を獲得する時代になってきました。40数年前に私たちが『使命』とまで言ったことが、ゆっくりとした変化ではありますが、その姿を現しています。第15回定演にご寄稿頂いた中野ニ郎先生のメッセージに《単なる練習の成果を披歴することではなく、斯界にして初めて成し得る表現の世界を築き上げて頂きたい》との一節があります。これこそが今の、 そして、これからの歴史を積み重ねて行く神戸大学マンドリンクラブの伝統 - オリジナル曲との共棲 - の太い背骨となるのではないでしょうか。