創部100周年記念誌


神戸大学マンドリンクラブは2015年に創部100周年を迎えました。それを記念し、創部100周年記念誌を作成しております。

 ・神戸大学マンドリンクラブ100th Anniversary 記念誌

 ・2015年8月1日発行

 ・国立国会図書館本館に蔵書(閲覧請求番号:KD268-L54)

 

ここではその一部を公開いたします。

弦友会会員の皆様には、折々にお手元の記念誌を手にとってご覧いただけましたら幸いです。


東京で「グランドシャコンヌ」を初演!


30回生 成瀬 賢次

 

 1980年4月京都演奏会で指揮者デビューを果たして間もない6月ごろ、来年春の演奏会は東京と決まりました。当時指揮者として自信もなく、KUMCの演奏がどのレベルなのかもわからず、東京でおそらく無名の神戸大学マンドリンクラブがお客を集められるのか想像もできず、正直大変なことになったと思いました。東京でとの言い出しっぺは誰だったのか記憶があリませんが(すみません)、先輩から受け継いだクラブ目標である「マンドリン音楽の追求と普及」と「そのために邦人オリジナル曲への取り組み」を真剣に継承発展を考えていた私達は、クラシック編曲ものやイタリア古典中心(らしい)東京で、邦人曲をぶつけてみたいという気持ちが少なからずあったのか、東京反対の声はほとんどなかったと思います。

 当時KUMCでは、帰山栄治氏、藤掛廣幸さん、熊谷賢一氏、鈴木静一氏の曲を良く取り上げていたので、関東でも有名な鈴木静一氏を除いた、残りの3人の曲をやりたいと思っていました。選曲をいろいろ考えていく内に、どうせなら新曲発表が一番インパクトあるね。それなら、私自身も大好きな曲パストラルファンタジーのヒットで東京でも人気がある(らしい)という藤掛さんに依頼をとなりました。

 パストラル、詩的二章、スタバートマーテルなどのヒットを飛ばしていた藤掛さんは、その頃、岐阜在住で東海学生マンドリン連盟での岐阜大学を中心に楽曲提供をしておりました。新曲依頼もたくさん来ているそうで私達の依頼を受けてもらえるのかとても不安でした。ただ、藤掛さんの新曲を東京で発表させていただきたいと一生懸命手紙を書きました。

 6月19日、新曲OKの返事をもらえた時は、ほんと飛び上がりたくなるほど嬉しかったです。新曲を引き受けてくださったお礼の連絡をした時「女房が成瀬くんの手紙を読んで、『こんな熱心なんだからあんた書いてあげたら』って言われて。お礼は女房に言って」とのことでした。

これで、東京演奏会の目玉ができ、やってやるぞーって、気合が入りました。しかし同時に、音符を見ても音が浮かばないダメダメ指揮者の私は、聞いたことのない曲を振れるのか、ものすごく不安でした。 8月31日、突然下宿にスコアが郵送速達で送られてきました。スコアには廣「CHACONNE for mandolin orchestra 神戸大学マンドリンオーケストラの為に作曲 藤掛廣幸」とありました。シャコンヌと聞きすぐ連想したのは、ギターの独奏曲で最初の和音からむずかしい難曲のバッハのシャコンヌ。しかも私の苦手の3拍子!ページを開く手が震えました。おそるおそるめくると、音符が少ない!う~んなんか弾けそう。その後にパストラルのフーガみたいなセカンドから始まる単音の動き。その後のやっぱりうれしい主題の再現。しかもフォルテシモ。最後はお決まりのフォルテ3つ。賛助不要で曲の長さもほどほど。これは・・・ひょっとしていいかも・・・だけど曲のまん中へんにある『緊張感にあふれた間!!』と書かれたグランドポーズ。と、その後にある難しいリズム。 なんとなく不安。

 

 25回定期演奏会が終了し、東京演奏会の練習が始まりました。下の回生が熊谷賢一氏の「群炎Ⅲ」を とりあげてくれたので、藤掛さんの新曲「グランドシャコンヌ」、帰山氏の「歴史的序曲」と東京演奏会の意義を如実に物語るプログラムとなりました。

 藤掛さんには、一度録音した練習テープを持って岐阜の自宅にお伺いして指導を仰ぎました。このリズムはもっとはねるようにとか、ここのギターはピッチカートで、このアッチェルはもっと早くなどな ど、いろいろ譜面に書かれている以上の作曲者の気持ちを知ることができとても有益な勉強になりまし た。また、グランドポーズのかっこいい振り方を教わったことはとても嬉しかったです。

 

 東京演奏会は1981年4月4日、浅草公会堂で行われました。心配していた来場者は、外マネの活躍と 在京OBのご支援が大きく700人を超えたようでほっとしました。外マネの話によると、東京の大学での PRに「あのパストラルの藤掛さんの新曲発表がある」というのがなんといっても働きかけやすかったとのことでした。

 

 いざ、本番。緊張しました。曲の出だしテンポを失う。気負いました。肝心なグランドポーズの次の 小節の頭で指揮棒を譜面台に強く当て動揺し、前半最大の山場のリズムが狂います。リズムを整えるため音量が落ちてきたのが最大の失敗です。冷静さを失ったようです。主題の再現の前のアラルガンドが 止まりきれず失敗しました。奏者はミス音がーつもない完壁な演奏をしてくれたのに、肝心の指揮者の心が弱く、作曲家に奏者に来場者に申し訳なく悔しくてしょうがありませんでした。あげくに、それを引きずったか、ヒストリークの冒頭まで失敗してしまいます。

 

 後日、演奏テープを持って、藤掛さんに報告に行きました。藤掛さん一言も発せず最後までじっと聞いています。そばでごめんなさい!ってしょぼんとしている私。演奏終了後、思いもかけない言葉「初演としてはまあまあちゃう」。なぐさめの言葉だと思いました。

 

 大学卒業後、愛知県で2年メーカー勤務したあと、家業に戻り静岡へ。グランドシャコンヌがその後どうなったのか気になりながらも、今とちがってネットのない時代だから、知るすべもなく、情報のまったくない中、マンドリンからどんどん遠ざかっていました。1999年にインターネットを始めて、藤掛さんのHPでマンドリン合奏曲参考CDというのを発売していることを知りました。理想的な表現に近い演奏が収緑されているということ。おそるおそる買って聞いてみました。酔っ払ったような3拍子。10何年ぶりかに聞いた演奏だけどすぐわかりました。初演だ!

 

 この時の驚きと感動と感謝を表現できる文章カがありません。

 すぐ思い立ちました。「藤掛ファンのホームページ」を作ろうと。だんだん集まる情報。グランドシャコンヌは全国各地で演奏され、藤掛作品再演数ではパストラルに次ぐダントツの2位。あちこちのサークルから卒業までには1度は弾く曲とのメッセージをもらいました。1986年には、ジュネスミュジカルマンドリンオーケストラで取り上げられNHKで放送されたということも知りました。神戸大学マンドリンクラブの依頼で世に出た曲がたった1回かもしれませんが、全国放送されたのです。クラブ目標であるマンドリン音楽の追求と発展に少しは寄与できたのでしょうか?

 

 また、後輩のきねづかくんたちがグラシャコを大事にしてくれてることも知り、本当に嬉しく思いました。

 現在藤掛廣幸事務所のHPで販売している参考CDのグランドシャコンヌのところに「神戸大学の初演」と書かれています。これまた光栄なことと思っています。

 グランドシャコンヌの初演という経験させていただきまして、演奏してくれた神戸大学マンドリンクラブのみんな、また東京演奏会を応援してくださった先輩たち誠にありがとうございました。

 最後に、2001年3月、京都演奏会で、50回生の戸松くん指揮によるグランドシャコンヌ20周年の演奏がありました。私は残念ながら聞きに行けませんでしたが、その時の藤掛さんのメッセージを披露させていただきたく思います。

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GRAND CHACONNEは神戸大学マンドリンクラブの委嘱により作曲されたもので、その素晴らしい名演奏により多くの人達に知られるようになりました。2001年で初演から20周年ですが、「パストラルファンタジー」や「トレピックプレリュード」とともに多くの人達に愛されて何度も演奏されるようになったのは、神戸大学マンドリンクラブの委嘱のお蔭だと感謝しております。(後略)

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